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コミケ前宣伝の一環です。(あざとい

pixivにも投稿したけど、短い通行止めssなど。

 

『雪が溶けたら』

 

『冬』という季節は曇り空がデフォルトなのだろうか。
そんなくだらないことを考えてしまうほどに、灰色の雲が厚く空を覆っている。
まだ昼過ぎだというのに、世界が寒々しく感じるのはそのせいか。
「寒いね~! ってミサカはミサカは息をふーふー吹きかけてから、あなたの手をギュッと握ってみたり!」
打ち止めが言葉のとおりに両手に息を吹きかけ、一方通行の左手を挟み込むように握った。
手袋もないのに温かく、しっとりとした肌の感触に、一方通行は自身の手が潤っていくような錯覚を覚える。
何となく、見下ろすようにして打ち止めへ視線を向けると、打ち止めも一方通行を見上げ、にこっと笑った。
――握られたまま、開いたままの一方通行の手に力が入る。
「…チッ」
指を曲げようとした自身の行動と、その結果どうなるかということに思い至り、舌打ちを零し、一方通行は視線を前へ戻した。
それでも、打ち止めの様子ははっきりと分かる。両手で一方通行の片手を握り、歩いている打ち止めの姿は、微笑ましくもあり――不自然でもある。
「……歩きづらくねェか」
短い一方通行の問いに、打ち止めは少し首を傾げた。
「だいじょーぶだよ、ってミサカはミサカはミッションを続行してみる」
作戦(ミッション)などと呼んでいるが、そんな大袈裟な指令は打ち止めにしか出ていない。
常日頃から、「寒い」を連呼する一方通行を少しでも暖めようとしているといったところだろう。
そもそも、どうして両手で握っているのか。
思考の海に沈む一方通行を横目に、打ち止めが空を見上げた。
空には、心躍るような青空も、太陽もない。
「これだけ寒いんだから、雪が降ればいいのにな、ってミサカはミサカは希望をこめて空を見上げてみる」
「…オイ、上向きながら歩くンじゃねェよクソガキ。つゥか、雪ならロシアで散々見ただろォが」
一方通行は足を止める。合わせて打ち止めも立ち止まった。
打ち止めは空を見上げたまま、左手を空へ伸ばした。雪が落ちてくることを待ち望むように。
「実のところ、ロシアのことははっきり覚えていないし、雪遊びを堪能する機会もなかったし、ってミサカはミサカはこぼしてみたり。それに、北国住まいの妹達が、暖房でぬくぬく暖まった部屋の中から外に降る雪を見つつアイスを食べるのが冬の楽しみ方なんだぜ、って言ってたことをミサカはミサカはお伝えしてみる」
「…随分と歪んだ満喫方法だなァオィ……」
理解できない情報を提供され、一方通行はげんなりと呟いた。冬にアイスクリームを食べるなど、一方通行の行動指針に全く当て嵌まらない。
しかし打ち止めにはそうではないらしい。アイスを買ってもらおうかな、という呟きを零しているのを聞き、カゴに入れられてもレジに行く前に戻すか、と一方通行は心の内で決定する。
「それにね」
打ち止めが握っている手を軽く引いた。つられて一方通行も打ち止めを見る。
「雪が溶けたら春になるんだよ、ってミサカはミサカは教えてもらった知識をあなたにも広めてみる」
そう言った打ち止めの顔は得意げだったが、内容が不可解だった。
「――ハァ? 雪が溶けても水にしかならねェよ。あァ、やり方によっちゃァ水になる前に蒸発させられっか」
「んもぅ、ロマンがないなぁ! ってミサカはミサカは反論してみる!」
「――なンで『雪が溶けたら春になる』っつゥのがロマンなンだよ」
一方通行としては常識に則ったコメントを返したつもりだったが、打ち止めはお気に召さなかったようだ。
それならばどういう解釈をしているのか、と打ち止めに問いかけると、打ち止めは「しょうがないなぁ」などと呟いた。
「あのね、雪ってたくさん降るとぜーんぶ埋まって、見える限り一面真っ白になっちゃうらしい、ってミサカはミサカは何となく覚えているロシアを思い出しながら説明してみる。それでね、だんだん雪が溶けていくと、真っ白だった世界がゆっくり目覚めて、世界が鮮やかに色づいていくのが実感できるんだって。それってすっごく素敵だなぁってミサカはミサカは思ってみたり」
頬を赤く染め、興奮気味に説明する打ち止め。だが興奮度合いに合わせて握る手を上下左右に振るのは勘弁しろと、一方通行は嘆息する。
一方通行もロシアの風景をさらっと回想し、打ち止めの解釈を当て嵌めてみるが、ロシアの雪を想像で溶かしてみてもそこには荒涼とした大地が浮かんでくるのみで、特に感慨も浮かばない。
だから、返す言葉も感慨がないものになってしまう。
「アアソウデスカァ」
投げやりに答えたのが伝わったのか、打ち止めがやや膨れ顔になり思いもしないことを言い出した。
「――あからさまにメンドクサイって反応をするあなたは、真っ白で雪の塊みたいだよねって、ミサカはミサカは新たな表現を提示してみたり」
『怪物』やら『最強』やら『うさぎ』やら『もやし』やら、一方通行の与り知らぬところで様々な代名詞をつけられているが、『雪』というのは初めてだ。
打ち止めがどういう意味でそう言い出したのか掴めないが、一般的にあまり良いイメージではない。意識せず一方通行の表情が曇る。
「……ハッ。つまり冷たい人間だとかいう意」
「今までずっと寒いところにいたから、積もった雪が溶けないままあなたを覆い隠しているんだね、ってミサカはミサカはあなたの後ろ向き発言を遮ってみたり」
一方通行が皮肉な答えを返すのを遮り、してやったりな表情で見上げる打ち止め。
「だから、あなたを覆っている雪が溶けたら、あなたの辛かったこととか嫌な思い出も解けて、周りにあったかくていいなぁって思えることがたくさんたくさん溢れていることに気づくんじゃないかな、って。そう、真の一方通行が春になったら見られるんじゃないかとミサカはミサカはワクワクしていたり!」
きゅ、と力を籠められる繋いだ手。えへー、と笑う打ち止め。
「ミサカはずーーーっと春状態だから、ミサカがいたらあなたの雪もはやく溶けるね! ってミサカはミサカは胸を張ってみる!」
(……成程)
今まで一方通行を取り巻いていた『闇』を雪に喩え、いまだ囚われている一方通行を打ち止めなりに助けようとしているのだろう。
――確かに、ロシアで見た延々と続く雪の大地は、何もかも吸い込み、埋め尽くし、歩みを鈍らせた。何もない世界に立っているのが自分だけだという状況は、想像以上に堪えるものだった。
壊れず、投げ出さず、最後まで歩いていけたのは、今、手を握る小さな少女がいたからに他ならない。
この笑顔と、擦り寄ってくる体温を守るために、取り戻し、もう一度見るために――。
全身を傷つけて、その中で聞こえた打ち止めの声は、確かに一方通行の中の何かを溶かした。
だが、それを素直に表面に出せるほどに、一方通行は丸くなりきれていなかった。
「……確かに、そのお気楽さは頭ン中が常春じゃなきゃ無理だなァ」
「むむ? それは褒め言葉ではないな? ってミサカはミサカはあなたに反逆を試みる! えーい!」
打ち止めは声と同時にばっ! と両手を離し、だーっと先へ駆けていった。
(どこがどォ反逆なンだよ)
首を傾げる一方通行の手に、ひやりとした空気が触れる。
(――そォいゥことか)
打ち止めが自分で始めた、一方通行を暖める作戦への反逆。
「どうだ! 少しはミサカのありがたみが分かったか! ってミサカはミサカはあなたに降伏を要求する!」
離れた先から、打ち止めの『降伏勧告』が届く。勝利を信じている、自信に満ちた笑顔で。
確かに、一度気になるとひやりとした感触はどんどん一方通行へ侵食してくる。今まで触れていた温もりが冷気に溶けていく。
「……」
しかし、一方通行は要求に屈することなく、左手をポケットに入れた。何故そうしたのかは考えないように。
その行動を見ていた打ち止めの表情が変わる。
「ガーン! まさか、ミサカがポケットに負けるなんて…! ってミサカはミサカはショックのあまりよよよ…って泣き真似してみる」
「真似かよ」
ため息をこぼし、一方通行は歩き出す。ころころ変わる打ち止めの行動を見ているのは飽きないが、このまま外に長時間いることに耐えられない。
「とっとと買い物済ませて帰ンぞ。オマエ、テレビ見るンじゃなかったか?」
「っ、そうだ! 15:55から『美人女将は見た! 男女混浴露天風呂殺人事件~ポロリもあるよ?』が入るんだった! ってミサカはミサカは慌ててみたりー!」
この後の予定を思い出し慌てる打ち止めの頭を、一方通行は軽く小突く。
「そンな番組見ンじゃねェ」
むう、と膨れて一方通行を見上げる打ち止め。その目の前で、一方通行は小突くために出した左手をひらひらさせる。
打ち止めはその手を視線で追って、ぱっと笑顔になり飛びついた。
先ほどとは違い、一方通行の左手に右手を絡めている。
「えへへへー」
寒さか、照れか、頬を赤くして嬉しそうに笑う打ち止め。一方通行も苦笑を浮かべる。
(単純なヤツ)
内心で評価したものの、それはどちらにも当て嵌まることに気づき、一方通行は舌打ちを漏らした。

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